セルソーターの遺伝子発現パターンに与える影響

 再生医療分野において疾病へとつながる細胞内の分子パスウェイについての手がかりは多く集められてきているが、そのようなパスウェイがどのように疾患に影響するかといった知見は未知の部分がいまだ多く存在する。その解析のためには遺伝子発現解析が有効であるが、ES細胞などの幹細胞では継代だけでも遺伝子発現 パターンが変動する可能性もあり(Matoba, et al. PLOS ONE, 1(1): e26)、より質の高いデータを得るためにこのような環境要因による影響を最小限に抑える工夫が必要である。

 ここでは細胞ソーティングの遺伝子発現パターンへの影響を調べるため、Caco-2細胞とHeLa細胞の2種類の細胞を2種類のセル・ソーター(当社On-chip Sortと他社製Jet-in-Air方式のソーターA)で 5万個 ずつソーティングし、それぞれ遺伝子発現量の変化を、ソートしていない細胞をコントロールとしてマイクロアレイ 解析をおこなった。
 図1 左・中において、On-chip SortはソーターAに比べて、細胞の遺伝子発現に与える影響が少ないことが示唆された。
 図1 右において、遺伝子発現レベルが全く変動しない遺伝子数は、On-chip Sortが既存のセルソーターに比較して3〜5倍多かった(数字は全データに対する割合)。

Influence of cell sorter on gene expression pattern

(図1 左・中)赤・緑の点はコントロール(ソート無し)のものと比較して大きく遺伝子発現量が変化したものを表す(数字は全データに対する割合)。

(図1右)各プロパティ(apoptosis, cell adhesion, cell cycle, etc)で分類されている生データをすべて統合したデータのうち、発現量の変化(ソートした細胞のシグナル強度 / ソートしていない細胞のシグナル強度)をヒストグラムとして、HeLa、Caco-2でプロットした結果。

 同上の解析データを更に分類ごとに分けて主に差が認められたものを示した(図2)。細胞増殖、細胞周期、細胞死などの分類で差が認められることは、前記した育成速度が異なる現象を補足して説明するデータとなりえる。また転写因子にも影響がありそうなことからソーティング後の2次解析の解釈も慎重なものとなる可能性がある。
 今回のプロトコルは、ソーティング後30~60分の間に次処理をした結果であるため、手技的な工夫次第では今回示した結果と異なる結果が得られる可能性はあるが、今回の培養と遺伝子発現の両データから、
セル・ソーティングが細胞に与えるストレスについては、少なからずの注意が必要であることが示唆される。
Comparison gene expression conventional cell sorter and on-chip sort

(図2)主に差が認められる分類ごとの解析。
左がソーティングなしと比較したOn-chip Sort。右がソーティングなしと比較したConventional Sorter。黒が差がなし。緑が低下。赤が上昇

マイクロアレイ解析協力:
株式会社セルイノベーター受託研究部 安田様、萩原様
九州大学 田代康介先生